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ピアソラが影響を受けたのは

監督日誌

月曜日から、定期公演に向けての練習が始まった。

まずはじめは、ピアソラの《ブエノスアイレスの夏》からだった。この曲はベートヴェンのピアノソナタに強い影響を受けているのがよくわかるのだけど、演奏者もわかって吹いているのか疑問に思い質問してみた。

「この曲はベートーベンのピアノソナタの何番に影響を受けているかわかる?」と、僕が質問したら、ぴかりんはすぐに「悲愴です」と、答えた。

凄いことだ!

そこまでしっかりと勉強をしているとは感心。もしかしたら、今年のクレモナは、とてつもなく進化するのではという期待が生まれた瞬間だった。

でも、ちょっぴり引っかかった僕は「同じことを2回聞きますが、ソナタの何番ですか?」と質問。「14番ぐらいだと思います」という返事が返ってきた。

「それは、月光!」、やっぱり分かっていない。なんという愚かなことなのだろうかと痛感した瞬間でもあった。

ここで、勘の鈍い読者の皆さまのために解説すると、クレモナのメンバーはベートーヴェンはもちろん知っているし、9つある交響曲については、それなりの知識もあるけど、ピアノソナタになるとさっぱり分かっていなく、恐らく《悲愴》と《月光》しか知らないと想像する。

こんな知識しかない演奏家はさっぱりダメなんだけど、昔の人はそれでもなんとかなっていた。恐らく、ピアソラも、ベートーヴェンのピアノソナタは《悲愴》しか勉強していないと思う。(やたらとハ短調が多いのもその影響)

本日はその辺りを解説したいと思う。

もう一度ピアソラを見直したい

30代になったピアソラはパリでブーランジェに対位法を師事している。約一年という短い期間だったので、基礎的なことからじっくりと勉強したというより、大切なエッセンスをブーランジェから学んだというのは推測できる。

教材はベートーヴェンのピアノソナタ第8番と、その後に作成された交響曲と弦楽四重奏曲だったと想像する。恐らく、ブーランジェは、バッハなどの超古典な対位法は教えずにベートーヴェンを題材に実践的な対位法を教示したみたいというのは、彼女の残した教材からも推察できる。

 つまり、彼女はアルプレヒツベルガーという、ベートーヴェンに対位法を教えた人の事を意識していたんだと思う。ベートーヴェンにとってアルプレヒツベルガーとの学習がその後の作曲家人生にとって最も意義があったと窺い知ることができる。

 なので、アルプレヒツベルガーをしっかりと押さえるためにベートーヴェンを教材にして対位法を教えるというのは実に理にかなっている。だって、ベートーヴェンの音楽の中には、アルブレヒツベルガーもバッハも出てくるのだから、それだけで十分。また、そのように判断したブーランジェというのは、やはり凄い指導者だというのがよくわかる。

この説明が理解できない演奏家は勉強不足、
公開練習に来て
コミュニティに入って勉強することをお勧めする。

監督かじくん

また、ピアソラの《ブエノスアイレスの夏》というタイトルの作品だけど、どうしてもブエノスアイレスという街の夏をイメージできるようには作られていない。これは、クラシック音楽を勉強した人なら誰でもわかると思うけど、全体的に「フランス風」なんだよね。

普通に聞けば、「フランス風序曲」をモデルにしているとわかるし、付点のリズム多用した部分は、「アッラ・ブレーヴェ」だと判断しても良いと思う。

ということは、ヘンデルのオラトリオ「メサイヤ」の序曲や、J.S.バッハの管弦楽組曲の各序曲と根っこは同じ。これらの楽曲から、対位法を引き継いだベートーヴェンのピアノソナタ8番に、ピアソラが大きく影響されたというのは、楽譜を見れば自明だと思う。

ここまでの説明で理解ができない演奏家は
しっかりと勉強しないと間に合わない。

監督かじくん

また、古典派の時代を俯瞰して語る時、ベートーヴェンが同時代の作曲家と区別されるのは、「ロマン派の扉を叩いた作曲家だ」と、いう指導者がいるけど、それは間違い。

実際は、ベートーヴェンが他の作曲家とは違って、対位法を重要視していた事実が最も大切だと思う。ちなみに、バッハの晩年は、世間からは「対位法に固執する時代遅れの作曲家」という評価だった。

時代は、宰相メッテルニヒ体制、音楽にも甘美さを求められて、小難しい音楽が敬遠された時代、そんなトレンドに逆行していったのが、ベートーヴェンだ。

さらに、ベートーヴェンの対位法の学習帳を見ると、ソナタにそのままの引用が見られることからもわかるように、複雑な音楽を通して、作品の普遍性を高めることに挑戦したというのがわかる。(とてつもない努力家だということ)

そして、ブーランジェとの学習によって、ベートーヴェンの対位法を探究し、ベートーヴェンの対位法からの伝統の流れに生きる厳しい側面を持ったピアソラが僕にはしっかりと感じることができる。

これからのクレモナの課題

演奏家としてピアソラの素顔に迫るために努力を重ねて、自分の演奏こそがピアソラの真の姿を表すものだと確信を持って演奏するべきだ。ただ、だからと言って、21世紀の現代から過去を振り返ってみると、数十年間にわたる演奏様式には大きな違いがあり、その変化はピアソラに対する価値とともに大きく変化しているということも理解しなければならない。

その上で、普遍的な音楽性を表出させることに成功すれば、さらに進化したクレモナになると確信している。

願わくば、僕が指導する公開練習は、進化の途中のクレモナの発展の一助となるものであってほしい。是非とも、見学に行きて、ワイワイと音楽を楽しんでもらえたら、この上なく嬉しい。

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