5日と7日はクレモナの公開練習でした。この日の練習は、定期公演のプログラムで演奏する全ての楽曲の練習となりました。いわゆる「通し稽古」というものです。
クレモナでは通し稽古というのはあまりしません。一般的にプロフェショナルの演奏家の多くの練習は、「通し稽古」的な側面が多分にあると思うのですが、私は通しをすることによって生まれる「予定調和」みたいなものが嫌いで、基本的にはしたくない派です。
でも、演奏者としては、絶対にやっておきたい練習で、通し稽古をしないとわからないことがたくさんあります。
例えば、スタミナの問題もそうですし、ステージ全体の流れを通してお客さまに何を持って帰ってもらうのか、大切なメッセージみたいなものが共有認識できるからです。
という感じで、この二日間はコンサートで演奏する楽曲の全体像を考えながら、楽曲の流れを中心に練習をしました。
演奏会直前に心掛けること
では、直前の練習で心掛けていることを少し整理いたします。
まず、今回新しい曲が3曲プログラムに入っております。さらに、コンサートの冒頭でも1曲新しい作品を演奏するので、4曲が新しくレパートリーに加わります。一般的に、新しい曲となるとしっかりと事前準備をするのですが、クレモナの場合毎回の定期公演で新しい作品をお披露目するので、メンバーは常に新しい楽譜と睨めっこをしていることにもなります。
オーケストラの場合であっても、これまで取り組んだことのない作品を演奏するということはいくらでもありますが、クレモナの場合その頻度と中身がオーケストラとは比較にならないほど、難しい作品ばかりです。しかも、ステージでは暗譜で演奏するのだから、めちゃくちゃ大変な作業となります。
一方、聞きにこられるお客さまとしても毎回難しい新しい楽曲を聴くことになるので、「よくわからない」とか、「知っている曲をやってほしい」というご意見を頂戴することもあります。
それでも、私たちは常に新しいことをやり続けるということを大切にしていますし、誰かがクラシック音楽を前進させなければならないという義務感もあります。
今回の演奏会のテーマは「静寂」
では、今回の定期公演でいったい何を大切にしているのかとご説明いたしますと、テーマは「静寂」です。夜のコンサートというものを意識してのことでもありますが、それに相応しい作り方を心掛けております。
もちろん、前述したように楽曲が難しすぎてお客さまが、「さっぱりわからなかった」という印象とならないように、わかりやすい演奏をしたいという気持ちはありますが、徹底的に「静寂」を磨き上げて、芸術表現に徹していければと考えております。
この辺り、「聴衆を蔑ろにしている」というご批判もあるかと思いますが、いつまで経っても議論が平行線になるので、ご容赦ください。
「スペース」とは
そして、その「静寂」を表出させるために「スペース」を考える作業が直前の大切なミッションとなっております。
音楽用語で「スペース」というのは、文字通り「空間」を意味するのですが、それは音のない空間、つまり「休符」を意味するという単純なものだけではありません。音がしっかりとなっている状況、ホールノートのような場合であっても「スペース」というのもを意識してクリエーションしております。
それは、以前から言っているように、タイム感をブレずに表出させて、音のファサードをそろえるという事が前提で、その先に「スペース」について考えるようになります。
この場合、楽曲全体での「スペース」ということではなく、各パートの一つ一つのポーションが全体にどのように影響し合っているのかを理解する上で、大切な考え方だと捉えて練習しています。
そのために大切な「スペース」、つまり、余白をどう捉えるのかが大切なポイントになり、それは音がなっていても同様に、考えなければいけません。
当然、音のなっている状態があるからこその、音のない状態なんだから、サウンドのある無しは関係ないという事です。
段階を踏んで作り上げる
「なるほど、大切ならはじめからスペースについて考えて作り込みをすれば良いじゃん」という意見が聞こえて来そうですが、はじめからそんな事を考えて作った音楽を私たちは芸術とは呼んでいません。
つまり、通し稽古をして、スペースを的確に捉えて、ようやくクレモナの音楽が芸術になるのであって、芸術に昇華させるために、私たちは「スペース」について深く考える時間を大切にするということです。
文章にするとわかりにくいかも知れませんが、ぜひ、詳しく公開練習で解説いたしますので、一度遊びにいらしてください。次回の公開練習は12日の19時30分からです。
皆さまのご来場、こころよりお待ち申し上げます。
2023年6月10日 監督かじくん
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