Listen to the Coffee,the Music and Cats.五感で楽しんでいる日常

BLOGコーヒーと、音楽と、猫のこと。

6

第14回定期公演「究極のカモーラ」を終えて。

『クレモナ』モダンタンゴ・ラボラトリ

ご来場くださったお客さまへ

この度はわたしたち『クレモナ』の定期公演『究極のカモーラ』にご来場くださり、ありがとうございました。
舞台から見た客席は、とても暖かい空気で、わたしたちと一緒に音楽に集中してくださっていることが肌で感じられて、ライブの素晴らしさを実感するとともに、こうしてコロナ禍を乗り越えて演奏活動を続けられているのはお客さまに応援していただけるおかげだと胸が熱くなりました。
2023年、『クレモナ』はまだまだ挑戦し続けます。またのご来場を心よりお待ち申し上げております。

2022年6月15日『クレモナ』ぴかりん、ゆき、あやめ、みーこ


わたしたち『クレモナ』モダンタンゴ・ラボラトリの今回の定期公演は、「究極のカモーラ」と名づけ、アストル・ピアソラの最晩年の最高傑作である作品群「ラ・カモーラ」をメインとしてプログラムを組み、「音楽」という芸術のあり方、表現の場である「ライブ」に向き合いたい、とメンバー一丸となって取り組んできた。

今回、わたしたち『クレモナ』が直面していたのは、「音楽の方向性と聴衆の理解の乖離」だった。

4つの異なる歌口の楽器だけで限界に挑戦して演奏をする。歌詞もなければ歌もなく、インストゥルメンタルで、しかもピアソラという「リベルタンゴを知らなければきっとどの曲もわからない」であろう超マイナーな作曲家が専門。楽譜は全てオリジナルアレンジで、お客さまは「はじめまして」の曲を1時間半ほどたっぷりと聴かされるという、いわば我慢くらべのような演奏スタイルをこの7年間続けてきた。

その中でも何度も演奏しているうちに、「この曲が好きだ」というご感想を頂戴することも増え、アンサンブルとしての演奏レベルも国内最高峰と呼ばれていいほどに上がってきて、メンバーも曲への理解が深まり、それだけ伝わるものも増えてきたし、お客さまの数も増えてきた。

しかし、技術が上がると、楽譜のレベルも上がる。新曲に取り組むたびにお客さまにとっては「はじめまして」、かつ「一度聴いただけでは理解しにくい」音楽となりつつあった。

また、音響芸術も取り込む演奏スタイルを確立させ、「どうしてクラシックなのにマイクを使うの?」というご意見もたくさん頂戴してきた。それに対する答え、というのは自分たちの中でもうまく言語化できない部分があった。「とにかく、新しい音響体験なんです」としか言いようがなかった。

この3年は特に、コロナもあって、お客様との関わり合いも持ちにくい状態で、しかし自分たちの活動を止めないよう、とにかく必死で活動を続けてきた。MIDI音声や、朗読を取り入れた挑戦的なプログラムも行ってきた。株式会社も立ち上げ、普段の生活も倍以上に忙しくなった。

自分たちが良いものを持っていて、それを届けているし、努力を続けている。だから大丈夫。という自負がどんどん積み上がっていたのかもしれない。「お客さまの理解」という部分で、もっと丁寧なフォローが必要だったであろう場面において、そこまで手が回せないということが増えていた、と今となっては思う。

そして、このザ・シンフォニーホール公演。想像をはるかに超えた、集客の苦戦が待っていた。読んで字のごとくお客さまが集まらない。平日の夜だから、という理由だけではないとわたしたちは肌で感じていた。

謙虚さを失っていたわけではない。ただ、お客さまの理解を置いてけぼりにしていたことがきっとこの大きな要因である、と公演の3ヶ月前に、メンバー全員で話し合った。

「常にはじめて『クレモナ』を聴く人がいる」ということをきちんと理解した上で、全てを丁寧に伝えよう、ということになった。

下手でも、自分の言葉でなんとかピアソラを説明しようとしていたMC。どうしても喋りすぎてしまうからなるべくない方向で、という動きになっていたが、これはもう一度見直すべきだという声が上がった。新曲を4曲もやるんだから、演奏会までに何度もお客さまに曲に触れていただけるよう、自分たちの個人やパートでの練習動画を発信しよう、ということになった。演奏会のプレイリストを作って自分たちの音源と、ピアソラの音源を交えて公開した。そして、プログラムでは、曲についてはもちろん、ピアソラと、音響についてきちんと書こう、と決めた。

そして何よりも、演奏をよりライブ感のあるものにしよう、人間らしい営みをしよう、と決めた。

演奏会本番。ご来場者数は214名となった。目標500名には半分も届かなかった。

しかしながら、演奏をして、話をして、演奏をしているうちに、今まで以上にお客さまが演奏に没入されているのをありありと感じた。同時に自分たちも音楽の中にトランスされていることを感じた。会場の静寂の中に音楽が生まれているのを目の当たりした。

これぞライブだと、痺れた。だから、どれだけ辛くったって、音楽は辞められない。

お客さまのご感想の中で、あの曲がよかった、この曲がよかった、と言っていただくことが今回本当に多かった。これまでは「全体的に良かったよ」というご感想がほとんどだったから、より具体的にお客さまに届くものがあったのだと思う。

わたしたちは音楽において、言葉を持たない。それがわたしたちにとっては当たり前であるが、言葉を持ってさえ伝わらないことがたくさんあるのに、音楽を通して伝える、届けるというのは非常に難しい。しかし、音楽にしか伝えられないことや届けられない気持ちや光景や状態があり、わたしたちはそれを芸術として表現する。

だからこそ、演奏会に来ていただくまでのプロセスや、演奏会での「おもてなし」というものをきちんと構築する、考えて、発信し続けることが、何よりもお客さまとわたしたちの間の架け橋になるということを改めて実感する演奏会となった。

「常にはじめましてのお客さまがいる」ということを胸に留め続けること、「わたしたちの音楽は確かに難しい」と認識し続けること。演奏会のあり方について常に自分たちに問い続けること。この定期公演は『クレモナ』が次のステージに向かう上で重要な公演であったと思う。

きっと必ず、このステージに帰ってくる。そう皆で心に誓った。

2023年6月22日 ぴかりん

RELATED

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


PAGE TOP