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「硬い音」、ソリッドな音について。

『クレモナ』モダンタンゴ・ラボラトリ

定期公演が終わり、早速次の準備に追われているクレモナです。

 現在のクレモナはアンサンブルの精度を向上させるために、さらに、尖った表現を表出したいと考えております。

音の硬い、柔らかいという意味

 という訳で、本日は、「硬い音」についてのお話をいたします。一般的に「硬い音」よりも「柔らかい音」の方が好まれる場合が多いという印象があります。クラシック音楽の現場で、「柔らかい音」という形容は褒め言葉で使用される機会が多いし、逆に「硬い音」というのは、緊張を連想させたり、「機会的で人間らしくない」というニュアンスで表現されることが多いです。

 もちろん、僕はこれらの評価には全く賛成しておりません。

 つまり、その定義は、構成音の倍音に起因しており、硬い金属を叩けば硬い「キーン」とした音になるし、それに比べて柔らかい木を叩けば「コツ」という音になるのは、ご理解いただけると思います。たったそれだけのようにも思われます。

 どちらの音がアンサンブルをする時に適切なのかは、場合によるのですが、一般的に柔らかい音色を求められる方が多いし、日頃の練習でも「ふとくて、柔らかい音」を目指して練習している演奏者も多いと想像できます。

 でも、それだけでは不十分で、相対的な問題なので、「硬い音色」がなければ、「柔らかい音」も認識できません。本日はその辺りを解説いたします。

聴き比べしてみましょう!:柔らかい音

 まず、ご覧ください。

 ブルースの神様と呼ばれた、BBキングです。めちゃくちゃカッコいいです。セミアコで若干ソリッドな音ではありますが、しっかりとクリーントーンで柔らかく、そして太い音で歌い上げているのがわかると思います。

 当然、誰もが認める超一流の演奏です。

 次にご覧いただくのはこちら、

 アンネ=ゾフィー・ムターという超有名なヴァイオリニストです。演奏しているのは、ヴァイバルディーの「四季」という作品で、これも皆さま良くご存知の作品です。非常にモダンな演奏となっていますが、小難しい話は別にして、ムターが黄色い衣装を着て、真ん中に君臨しているのがよくわかると思います。高嶋ちさ子さんに似ていますが、少し違うのでご注意ください。(タイプは同じですが…)

 ヴィブラートたっぷりに柔らかく、優しく歌い上げているのがよく伝わる映像です。若干、やりすぎという印象は受けますが、素晴らしい演奏であるのは誰もが認めるところだと思います。

 こちらの両者に共通しているのは、業界ではトップに君臨したレジェンドだということと、二人ともに柔らかい音色でいて、バックをぐいぐいと従えて音楽を前に進めているのが分かると思います。

 衣装もすごいですよね。誰が見ても、「主役は私です」となっており、絶対に間違えたりはしません。

 もちろん、お客さまも、バックバンドを見に来ているのではなく、この二人のレジェンドを見に来ているし、しっかりと最上級の演奏を披露されています。

 「やっぱり、柔らかい音色が素晴らしいんだ」と、思われるかも知れませんが、実はそう簡単ではないのが音楽の話です。

聴き比べしてみましょう!:硬い音

 次に見てもらいたいのは、こちらです。

 アルバート・キングという人の演奏です。この人もBBキング同様にブルースの神様みたいな人で、現在でも多くのアーティストに多大な影響を与えているレジェンドです。めちゃくちゃかっこいいです。(日本では必ずしも高い評価とは言えませんが…)

 BBキングとの違いは、見た目でもわかるようにギターです。彼は、いわゆるエレキギターを使用して、めちゃくちゃソリッドな音になっています。硬くて細い音色といっても良いと思うし、歪んだ音もシャープだし、クリアな音になっています。

 派手なギターのわりに、周りとしっかりアンサンブルをしています。他の楽器がソロを取る時は、自身は控えめにバッキングしているのが良くわかるし、何よりメンバー全体で音楽を前に進めているのが伝わってくる演奏です。

 そういうところが、僕は大好きです。

 続いてこちら

バッハの管弦楽組曲という作品です。真ん中で吹いているのは、エマニュエル・パユという世界に君臨しているフルーティストです。ムターの演奏とは違い、ゴリゴリのヴィブラートはありません。非常にクリアで繊細かつ細い音で演奏しているのがわかります。

 パユはあくまでアンサンブルとして作品を捉えているのが伝わるし、「俺様が主役だ」という雰囲気はありません。常に周りと調和しながら進めて、最高級のアンサンブルを客席に届けている素晴らしい演奏です。

 もちろん、お客様は、パユの演奏を聴きに来られていますが、ムターのような威圧感はそこには存在しません。音色も野太い音を前面に出したりせず、細くて硬質な音でアンサンブルを纏めているのがわかると思います。

 同世代に活躍したバロック時代を代表する作曲家の作品をそれぞれ聞いていただきました。ヴィバルディーの作品は、主役が中央に君臨して、その後ろで、脇役たちが喚き立てて付和雷同のごとく一斉にジャカジャカとやっています。これが、バロック音楽の特徴でもありますが、個人的には魅力を感じることができません。

 一方、バッハの作品は、ソリストが君臨することはなく、全体でアンサンブルをしているのがわかると思います。特に独奏部が際立っている訳でもなく、ポリフォニーの中で、全員で対話しながら音楽が進んでいるのがわかると思います。

 それぞれ両者を聞き比べて、どのように思われたでしょうか?4つの演奏は最大級のレジェンドがしているので、本当に素晴らしい演奏には違いがないのですが、アンサンブルをしているクレモナが目指す音楽というのは、どこにあるのかは、皆さまにはお分かりになったと思います。

 もっと、ソリッドな音で、細い音色をアンサンブルに取り入れる作業。これからのクレモナの課題となります。

 その秘密は練習時に明かされます。ぜひ、一度、公開練習を見にいらしてください。

2023年6月23日 監督かじくん

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