この日は「通し練習」となりました。通し練習というのを、ほとんどしないのが私のモットーです。一般的に、通しをたくさんされる方、それはどんな曲であってもそうだと思いますが、最小限にするべきだと私は考えております。
音楽作りの前にしないことがたくさんあり、そこを抜かして進むというのは、感心する結果にはなりません。本日はその辺りのお話をします。
まずは、自分の演奏を疑って聴いてみて
通し稽古ばかりすると予定調和的になってしまいます。これって、時間芸術をされる人にとっては致命的な緊張感のない、瞬間芸術とは言えない表現になってしまいます。
通し稽古は、一度はするのですが、それ以外は絶対にしません。なので、一回の通し稽古はめちゃくちゃ重要になってくるし、それに向けてしっかりと準備をします。これは、メンバーだけでなくすべてのスタッフも同様です。
また、通し稽古をして、自分の音を見つめ直す作業は絶対に必要で、まずは自分の音を疑って見ることが大切だと思います。
音楽作りの前に音色作り
さて、通し稽古でメンバーはそれぞれ自分たちの課題点を発見するのですが、私たち制作サイドは少し違います。
今回、音作りを徹底的に取り組んでいるのですが、その辺り通し稽古で見えてきた問題点についてご説明いたします。
音楽を作る作業で一番にしないといけないのが《音色》です。音楽を作る前に音色をしっかりと作らなければいけません。では、クレモナではいったいどのように音色を作っているのかご説明します。
アンサンブルをする場合、徹底的に和音が大切になってくるのですが、クレモナでは「和音のレア(生)感」を大切にしております。
実は、管楽器で和音を出してみると意外にレア感がないということがあります。例えそれが純正調で正しいピッチで取っていたとしても、無機質な音で構成された物理的な現象がそこにあるだけという演奏をよく見かけます。
また、レア感のない生演奏って、非常にヘンテコな表現だと思いますが、演奏している時に「生演奏をしている」という感覚、つまり、「レア」を感じない演奏が非常に多くあると思います。もしかしたら、考えた事ない演奏者もいるかも知れません。管楽器を吹いただけで「レア感」が勝手に身についていると思っていたとしたら大間違いです。
常に「レア」になる音色を追求し、アンサンブルするのが、今の時代の生演奏の演奏者に求められるスキルでもあります。
素材より良い音にはならない
次に、和音のレイヤー(層)の概念が必須です。つまり、演奏する時に和音のバランスを理解していないと、おかしなサウンドになってしまいます。まるでベロシティの壊れたキーボードを聞いているような気分です。
つまり、どれだけ素晴らしい和音であっても、何も考えずに音だけ出していると音楽にはなりません。全く同じ音を出していても、ボイシングは何も変えていなくても、ただ和音を出せば音楽になるというほど、単純なものではないという事です。
これは、最近のピアニストに非常に多いのですが、ブラームスでも、リストでも、すぐに和音を叩いてしまう人がいます。いったい誰が音圧を求めたのでしょうか?ホント、そういうピアニストには「君たちはそんなことしなくていいよ」って言いたくなります。
今回演奏する坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」でもそうですが、すぐにでかい音で和音を叩いている演奏を聞きますが、本当にぶち壊してしまっていますよね。
そういう人の演奏は、何も考えずに、首だけ振っている「キツツキ」のように見えてしまいます。
自分たちの演奏が芸術でありたいと思うのなら、ひとつの音に対して、責任を持って「レア感」を表出するようにして欲しいです。どれだけ楽譜が素晴らしくても、どれだけ音響が良くても、素材より良い音楽にはならないし、良い音楽にするためには、まずは素材である「ひとつの音」を磨き上げる作業が必要という事です。
つまり、合奏でうまくいかないのは、素材がうまくいっていないからであり、それをあれこれとこねくり回しても感心した結果にはなりません。だから、演奏者は常に音の素材がうまくいくように練習しなければいけないという事です。
まずはソリッドな音色を目指す
という事で、クレモナではレイヤーの前に持っていきたい音をソリッドにするようにしています。「ソリッドな音」については以前お話ししたので、ググってみてください。検索トップに僕の記事が出てくるのでご参照ください。
前回の定期公演を終えて、まずはじめに「ソリッドな音」を追求すると僕は言っています。レイヤーの一番前に出したい音をもっとソリッドにしていく作業が、あと数回の公開練習で僕に課せられた課題です。
現在、すべて順調に進んでいます。メンバー一同、良い感じで仕上がってきているという実感しかありません。
今回の定期では徹底的に正しいフィールで演奏するように心がけています。特に際立ったテクニックなんて不要。
クラシック音楽としてサウンドさせる上で、何が大切なのか、その辺りを詳しく紐解くのが公開練習です。はじめての方でも充分に楽しんでいただける時間になると思います。
ぜひ一度、現場にお越しください。
2023年12月1日 監督かじくん
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