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坂本龍一の音楽を表現するにあたって

監督日誌

月曜日と水曜日は公開練習でした。ご来店くださった皆さま、またメルマガの読者者さま、コミュニティの参加者さまで配信をご覧くださった皆さま、ありがとうございました。

坂本龍一さんの作品と向かい合うプログラム、白熱した練習となりました。

まずはじめに、

自己表現、事後現実こそが自ら生きる目的だと考えている人も多いと思われます。しかし、僕は自分の夢を探すような生き方には否定的な立場をとっています。

でも、多くの人が、音楽こそ、自己表現の最たるものであり、自分を追い求める探究の作業ではないのだろうかと思う人もおられると思います。

また、音楽をしながら、自分を求めないというのは、いったいどういうことでしょうか?本日はその辺りのお話をします。

「歌」について

ピアソラと坂本龍一さんの作品には、他の作曲家の作品にはあまり見られない特徴があります。それは、「歌」がほとんどないということです。この「歌」というのは、何も歌声だけを指すものではありません。

一般的な演奏者は、楽器を使って「歌う」ということを常に考えていますが、今回のコンサートでは、注意深くそこから距離をとるように作り込んでいます。

また、ある感情を持って旋律に乗せていくのが「歌」であり、今回は人間的な感情に接近しないで、作り込んでいきたいという試みも徹底しております。

音楽を表現するということ=自己表現?

でも、音楽に限らず、何かを創作する目的の多くは、自己表現であるはずで、そこに作者の想いが込められているのを、多くの人は当たり前として考えています。また、クラシック音楽の範疇で、それらに対して、反対の立場をとるという事は、線的で自己表現的な音楽から距離を置くということになると思います。

今、強く思うのは、西欧音楽、つまりクラシック音楽で培った一義的な聴覚から脱却したいという事です。この話は難しくなるので、定期公演のプログラムでしっかりとお話ししようと思いますが、感情をのせた音楽は、しないということになります。(ちょっぴり気恥ずかしくなるので…。)

一義的に聴こえる音

さらに、一般的に流布している音に対しての固定的で一義的に捉えるという事象は、なるべく排除したいとも思っています。

例えば、電車の音って「ガタンゴトン」と聞こえるじゃないですか?あれって、電車を毎日乗って通勤通学する前から、つまり子供の時に植え付けられた勝手な固定観念だと思うんです。そうやって刷り込まれた耳で電車に乗ったら、完全にそれ以外で聞くことができなくなっていると思うんです。

電車の音って、めちゃくちゃ複雑だし、さまざまな環境音もあるにも関わらず、僕たちは全員、「ガタンゴトン」って聞いているんですよ。考えから恐ろしい現実だと思います。

また、学校のチャイムも、皆んなで「キンコンカンコン」って聞こえているのも、考えたらおかしいですよね。そこには、多義的に音を聞くという姿勢がありません。

音を単純化するのも、一般化するのも必要なことなのかもしれないけど、僕は少し違った捉え方をしたいと考えています。

管楽器の音も、電子音も、等価

今回、電子楽器の音を多用したステージを試みたいと思っています。この事については、これまで多くの話をしてきたので、本日は割愛いたしますが、これまでのクラシック音楽を前進させるために、必要な要素として電子楽器の音を取り入れると僕は考えています。

管楽器の演奏する音も、電子音も等価的に扱いたいと思っていますし、何より「ガタンゴトン」という単純なユニットとして音を捉えないように心がけています。これは、耳もだし、目もなんですけど、感覚器を使って聞くということを大切にしたいということになります。

これは、コロナ禍で強く感じたことですけど、音楽がより身近なものになったと思うし、よりパーソナライズされてきていると思うんです。それは素晴らしいことですが、そうなる事によって、僕たちは生活にある音に耳を傾けなくなったように思うんです。

皆さんは、どうでしょうか?

これは、音楽だけに限らず、さまざまな情報が氾濫しているために、日常的なものに対して腰をすえる時間が短くなってしまったのかも知れません。多くの人は、時間がかけられないために、腰をすえる事に対しての価値自体も見失われて、さらに時間をかけなくなっています。

こういった現状をなんとかするために、もっと、身近にある繊細な現象に耳を委ねることを大切にするコンサートになればと願っております。

つまり、演奏家としては、自分探しをする暇があったら、自分とは違う何かを求めて演奏したいと願っている。そんなコンサートです。

チケットは、まだあります。日曜日、クリスマスイブの午後からですが、ぜひ新しい表現を探しにいらしてください。

2023.11.10 監督かじくん

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